宿泊施設・アメニティ研究
宿泊施設における使い捨てフェイスタオルの持ち帰り運用に関する探索的研究
「旅館の薄手フェイスタオルは持ち帰ってよいのか」「ホテルのバスタオルとの違いは何か」。本記事では、アンケート、現地観察、対面聞き取りをもとに、持ち帰り可否、施設側評価、残置後処理を整理します。前半で主要結果を簡潔に示し、後半で分類方法、分析条件、先行研究、統計手法、個別施設調査、限界を詳しく説明します。
要旨
本研究は、宿泊施設等における使い捨てフェイスタオルの持ち帰り運用を、施設属性、持ち帰り実態、施設側評価および残置後処理の観点から探索的に整理した。アンケート本票40件、現地観察8件、対面聞き取り2件を確認し、取得方法と設問の対応関係に応じて分析単位を分けた。
全体属性分析では、回答間に不整合のある2件を除く48件を対象とし、使い捨て・持ち帰り可26件、備品・持ち帰り不可22件に分類した。本調査対象では旅館群15件中14件が使い捨て・持ち帰り可であり、旅館以外群33件中12件より多かった。
施設側評価の主分析はアンケート本票24件に限定し、「助かる」11件、「どちらでもない」11件、「困る」2件であった。持ち帰り状況と施設側の総合評価には正の順位相関がみられた(Spearmanのρ=0.541、p=0.006)。聞き取り2件を加えた補足分析26件でも同方向の関連が確認された(ρ=0.437、p=0.025)。
ただし、作業時間、廃棄重量、清掃転用回数、洗濯回数および処理費用は直接測定していない。したがって、本結果は持ち帰りによる作業負担または環境負荷の軽減を証明するものではなく、今後の検証課題を示す仮説生成的知見として位置づける。
持ち帰り可26件、持ち帰り不可22件
15件中14件が持ち帰り可
助かる11、中立11、困る2
ρ=0.541、p=0.006
1.研究背景と先行研究
1.1 宿泊施設における2つのタオル運用
宿泊施設におけるフェイスタオルには、施設側が回収・洗濯・再提供する備品型と、宿泊客による持ち帰り、清掃用への転用または廃棄を前提とする消耗品型がある。備品型では、回収、仕分け、洗濯、検品、保管、補充、紛失防止等が運用上の論点となる。使い捨て・持ち帰り型では、宿泊客が持ち帰る割合、残置タオルの回収、清掃転用、廃棄、保管および案内表示が論点となる。
とくに旅館では、薄手フェイスタオルが入浴用、記念用または持ち帰り用として提供されることがある。一方、都市型ホテルやビジネスホテルでは、フェイスタオルとバスタオルが一組の備品として管理され、持ち帰り不可であることが前提となりやすい。同じ「タオル」であっても、施設業態と運用形態によって意味づけが異なる。
1.2 先行研究が主に扱ってきた対象
ホテルのタオルに関する先行研究では、施設所有タオルを宿泊中に交換せず再使用してもらう行動が主に検討されてきた。Goldsteinらは、社会規範を用いたメッセージがホテル宿泊客のタオル再使用行動に与える影響を検証した。Han and Hyunは、宿泊客の環境配慮行動や心理的要因と、節水・タオル再使用との関係を検討した。Gösslingらは、案内文の表現や規範的訴求の設計によって、タオル再使用行動が変化する可能性を示した。
これらの研究が扱うのは、原則として施設が所有または管理し、回収・洗濯・再提供するタオルの交換頻度を減らす行動である。それに対して、旅館等で提供される薄手フェイスタオルには、宿泊客による持ち帰りを前提とし、施設側が再回収・再提供しない運用が存在する。
1.3 本研究が扱う研究上の空白
持ち帰り可能な薄手フェイスタオルでは、宿泊客が持ち帰らなかった場合に、施設側で廃棄、清掃用への転用、保管または例外的な再利用等の処理が発生する。しかし、持ち帰り状況、残置後処理および施設側評価を一体として整理した研究は限られている。
本研究は、サービス・オペレーション管理の観点から、タオル提供後に施設側で発生する業務工程に着目する。回収・洗濯・再提供を前提とする備品型と、持ち帰りまたは廃棄・清掃転用を前提とする消耗品型では、施設側に発生する工程が異なるためである。
2.研究目的
- フェイスタオルを、施設側が回収・洗濯・再提供する備品型と、宿泊客による持ち帰りまたは施設側での廃棄・清掃転用を前提とする使い捨て・持ち帰り型に区分し、その分類基準を整理する。
- 旅館、ホテル、温浴施設等の施設属性によって、使い捨て・持ち帰り型の運用がどの程度確認されるかを把握する。
- 使い捨て・持ち帰り型の施設を対象として、実際の持ち帰り状況、残置後の処理および施設側の総合評価との関係を探索する。
本研究の目的は、単純に「持ち帰られると施設が助かるか」を断定することではない。どのような施設で持ち帰り型が見られるか、どのような処理工程が発生するか、施設側がどのように受け止めているかを整理することにある。
3.調査方法
3.1 アンケート調査
アンケートは2026年2月頃、筆者が運営する宿泊施設向けECサイトの既存登録顧客約1,000件を対象として、メール配信により実施した。回答にはGoogleフォームを使用し、明確な回答期限は設定せず、少なくとも同年3月まで回答を受け付けた。
配信先には宿泊施設だけでなく、温浴、医療・介護、その他の事業者も含まれる。全配信先を分母とした単純回答率は約4%であるが、宿泊施設に限定した配信母数を確定できないため、宿泊施設のみの正確な回答率は算出できない。
回答完了後には、回答内容にかかわらず、自社ECサイトで利用できる5,000円分のクーポンを表示した。最低購入金額は設定せず、有効期間は1年間、1会員につき1回利用可能とした。回答特典が回答参加や回答傾向に影響した可能性は否定できない。
回答者の氏名、役職、所属部署、施設名、メールアドレス、会員ID等の識別情報は取得しなかった。また、同一人物による重複回答を技術的に完全に制限する設定は行っていない。回収回答のうち、配送先が個人名であり、施設運用ではなく個人利用と判断された1件を除外し、アンケート本票40件を分析対象とした。
3.2 現地観察
現地観察は8施設で実施した。一般利用者として宿泊または施設を利用し、タオル提供形態、持ち帰り可否、案内表示、大浴場の有無、施設類型等を確認した。案内表示だけでは判別できない場合は、フロントに対し「フェイスタオルは持ち帰り可能か」「バスタオルは持ち帰り可能か」を中立的に確認した。
現地観察はアンケート本票と同一の設問順序・選択肢で取得していないため、施設属性と運用を確認する補助資料とし、施設側評価の統計分析には含めなかった。
3.3 対面聞き取り
対面聞き取りは2施設で実施した。調査目的と研究資料として公表する可能性を説明した上で、施設の運用を把握する担当者に対して半構造化形式で行った。タオル提供形態、持ち帰り割合、残置後処理、施設側評価等を共通質問票に沿って確認した。
聞き取り2件は、本票と内容的に対応する持ち帰り状況および施設側評価に限って補足的に統合した。利用客層、表示ニーズ等の本票だけで取得した項目には統合していない。
3.4 分析単位と有効件数
アンケート本票40件、現地観察8件、聞き取り2件の合計は50件である。ただし、取得項目と取得方法が完全には一致せず、回答間の不整合もあるため、すべての分析で一律にn=50を用いなかった。
表1 分析単位と有効件数
| 分析単位 | n | 用途 |
|---|---|---|
| 全体属性分析 | 48 | 本票40+現地観察8+聞き取り2の計50件から、不整合2件を除外。施設属性と提供形態の分析 |
| アンケート本票の主分析 | 24 | Q4で使い捨て導入が確認され、Q7の施設側評価が有効な本票のみ |
| 聞き取りを加えた補足分析 | 26 | 本票24+対応項目を確認できた聞き取り2 |
| 現地観察 | 8 | 施設属性、提供形態、持ち帰り可否、表示等の補助事例 |
4.分類方法
4.1 Q4・Q5・Q7を組み合わせた判定
タオル提供形態は、単にQ4で「リネン」または「使い捨て」と回答したかだけでは判定しなかった。Q4「現在提供しているフェイスタオルの種類」を出発点とし、Q5「使用後のフェイスタオルの主な扱い」およびQ7「使い捨てフェイスタオルが持ち帰られることへの施設側の印象」を組み合わせた。
表2 分類に用いた主な設問の役割
| 設問 | 役割 |
|---|---|
| Q4 | 現在提供しているフェイスタオルの種類を確認し、リネン系/使い捨て系の初期分類に用いる |
| Q5 | 使用後の回収、再利用、廃棄、持ち帰り等の運用を確認する |
| Q6 | 使い捨てタオルが実際にどの程度持ち帰られているかを確認する |
| Q7 | 施設側評価を確認し、使い捨て導入有無との不整合判定にも用いる |
4.2 「リネン」の扱い
現場で用いられる「リネン」という語は、リネンサプライ会社が所有するタオルだけを指すとは限らない。施設所有タオル、自社洗濯、外部委託洗濯、施設側が持ち込んで洗濯する場合など、回収・再利用される布製タオル全般を含んで使われることがある。
そのため、本研究では「リネン」という回答だけで備品型と判定せず、Q4、Q5、Q7を突き合わせ、使用後に施設側が回収・洗濯・再提供する前提のものを「備品・持ち帰り不可」と整理した。
4.3 「使い捨て」の扱い
本研究における「使い捨て」は、使用直後に必ず廃棄することだけを意味しない。宿泊客への持ち帰り用アメニティ、残置後の清掃転用資材、備品タオルとの併用等を含む。
したがって、宿泊客による持ち帰り、または施設側による再回収・再提供を前提としないものを「使い捨て・持ち帰り可」と整理した。
4.4 不整合2件の除外
アンケート本票40件のうち、Q7で「使い捨ては導入していない」と回答した15件は、施設側評価の主分析から除外した。
さらに、Q4とQ7の回答が矛盾する1件、およびQ4・Q5では回収再利用型である一方、Q7で持ち帰り評価を回答している1件は、使い捨て・持ち帰り可または備品・持ち帰り不可のどちらにも安定して分類できないため、全体属性分析からも除外した。
4.5 旅館群と旅館以外群
アンケート本票または聞き取りで施設種別が「旅館」と確認された施設を旅館群とし、それ以外を旅館以外群とした。国民宿舎、温泉付きホテル、大浴場付きホテル等は、タオル運用上は旅館に近い場合があっても、本分析では旅館以外群に含めた。
旅館以外群には、都市型ホテル、ビジネスホテル、温浴施設、民泊、ゲストハウス、その他事業者等が混在するため、均質な比較群ではない。したがって、本結果は厳密な「旅館対ホテル」の比較ではなく、本調査対象における便宜的区分の比較である。
5.分析方法
分析では、記述統計とクロス集計を行った。標本数が小さいため、2値変数間の関連には必要に応じてFisherの正確確率検定を用いた。割合の95%信頼区間は、0件または100%のセルを含む少数標本を考慮し、Clopper-Pearson法による正確二項信頼区間として算出した。
退室後の持ち帰り状況、施設側評価、施設規模等の順序を持つ項目は順序尺度として扱い、Spearman順位相関を算出した。
施設側評価は、Q7の回答を「助かる」「どちらでもない」「困る」の3区分に整理した。ここでQ7は、回収作業、廃棄量、保管負担、費用等を個別に測定したものではなく、持ち帰られることに対する総合的な印象を尋ねた単一設問である。
6.結果
6.1 フェイスタオル運用の全体分類
全体属性分析n=48では、使い捨て・持ち帰り可に分類された施設は26件(54.2%)、備品・持ち帰り不可は22件(45.8%)であった。
6.2 旅館群と旅館以外群の比較
旅館群では15件中14件が使い捨て・持ち帰り可であり、割合は93.3%であった。旅館以外群では33件中12件、36.4%であった。
Clopper-Pearson法による95%信頼区間は、旅館群が68.1~99.8%、旅館以外群が20.4~54.9%であった。補足的なFisherの正確確率検定でも両群の分布差が示唆された(p<0.001)。ただし、施設業態だけが差の原因であると断定することはできない。
6.3 アンケート本票24件の施設側評価
施設側評価の主分析は、アンケート本票のうちQ4で使い捨て導入が確認され、Q7の評価が有効であった24件に限定した。その結果、「助かる」11件(45.8%)、「どちらでもない」11件(45.8%)、「困る」2件(8.3%)であった。
持ち帰り状況と施設側の総合評価との間には正の順位相関がみられた(Spearmanのρ=0.541、p=0.006)。持ち帰りが多いと回答した施設ほど、施設側の総合評価が肯定的である傾向を示す。
ただし、「どちらでもない」11件を「負担がない」と解釈することはできない。持ち帰りによる利点と、廃棄、保管、清掃転用等の負担が相殺されている可能性もある。
6.4 聞き取り2件を加えた補足分析
アンケート本票24件に、対応する持ち帰り状況と施設側評価を確認できた対面聞き取り2件を加えると、「助かる」13件、「どちらでもない」11件、「困る」2件であった。
持ち帰り状況と施設側評価の順位相関はρ=0.437、p=0.025であり、本票のみの主分析と同方向であった。聞き取り2件を追加したことによって関連が新たに生じたのではない。ただし、アンケートと聞き取りでは回答環境が異なるため、n=26は補足的結果として位置づける。
6.5 残置後処理
使い捨てフェイスタオルが施設内に残置された場合、その後の処理は施設によって異なった。アンケートでは、そのまま廃棄する、清掃用資材として転用する、施設内で洗濯して再利用する、持ち帰りを想定する等の複数回答が確認された。
対面聞き取りでは、1施設が残置タオルの61~100%を清掃用に転用し、直接廃棄0~10%、洗濯再利用0~10%と回答した。もう1施設では、清掃用転用31~60%、直接廃棄31~60%、洗濯再利用0%であった。
6.6 表示ニーズ、利用客層、施設規模
使用後処理と表示ニーズについては、「ゲストに持ち帰ってもらう」ことを想定する施設で、助かる評価が多い傾向がみられた。また、浴場・脱衣所での案内を有効と考える施設では、使い捨てフェイスタオルが客室備品というより、入浴導線上の消耗品・持ち帰り用品として理解されている可能性がある。
利用客層との関係は本票24件だけで取得した補助的分析である。個人客や友人グループを含む施設で助かる評価が多い傾向がみられたが、これらの客層は旅館や小規模施設と重なっている可能性があり、客層単独の効果とは断定できない。
施設規模については、統合評価可能データの中で大規模施設が1件にとどまり、規模による差を検証できなかった。
表3 主な分析結果
| 分析項目 | 結果 | 解釈上の注意 |
|---|---|---|
| 提供形態(n=48) | 使い捨て・持ち帰り可26件、備品・持ち帰り不可22件 | 不整合2件を除外した本調査対象内の分布 |
| 旅館群 | 14/15件が持ち帰り可(93.3%) | 回答上の施設種別による便宜的分類 |
| 旅館以外群 | 12/33件が持ち帰り可(36.4%) | 複数の異なる業態を含む |
| 施設側評価(本票n=24) | 助かる11、どちらでもない11、困る2 | 単一設問による総合評価 |
| 持ち帰り状況と評価(本票n=24) | ρ=0.541、p=0.006 | 関連であり因果関係ではない |
| 補足分析(n=26) | ρ=0.437、p=0.025 | 本票24+聞き取り2。回答環境は同一ではない |
7.個別施設調査10件の匿名整理
個別施設調査10件を、取得方法と運用上の主要項目に限定して匿名化した。現地観察8件では、いずれも施設備品型でフェイスタオルの持ち帰りは不可であった。対面聞き取り2件では、いずれも持ち帰り可能な薄手フェイスタオルが提供されていた。
表4 個別施設調査の匿名表
| 匿名ID | 調査方法 | 施設類型(大区分) | 大浴場 | フェイスタオル運用 | 残置後の扱い |
|---|---|---|---|---|---|
| A | 現地観察 | 温泉付き都市型ホテル | あり | 備品・持ち帰り不可 | 確認対象外 |
| B | 現地観察 | 温泉付き都市型ホテル | あり | 備品・持ち帰り不可 | 確認対象外 |
| C | 現地観察 | 都市型ビジネスホテル | なし | 備品・持ち帰り不可 | 確認対象外 |
| D | 現地観察 | 都市型ビジネスホテル | なし | 備品・持ち帰り不可 | 確認対象外 |
| E | 現地観察 | 都市型ホテル | なし | 備品・持ち帰り不可 | 確認対象外 |
| F | 現地観察 | 大浴場付き都市型ホテル | あり | 備品・持ち帰り不可 | 確認対象外 |
| G | 現地観察 | 都市型高価格ホテル | なし | 備品・持ち帰り不可 | 確認対象外 |
| H | 現地観察 | 温泉宿泊施設 | あり | 備品・持ち帰り不可 | 確認対象外 |
| I | 対面聞き取り | 旅館 | あり | 薄手・持ち帰り可 | 清掃転用61~100%、直接廃棄0~10%、洗濯再利用0~10% |
| J | 対面聞き取り | 旅館 | あり | 薄手・持ち帰り可 | 清掃転用31~60%、直接廃棄31~60%、洗濯再利用0% |
施設名、所在地、調査日、チェーン名、固有設備等、施設の特定につながる情報は掲載していない。
8.考察
8.1 旅館群に持ち帰り型が多かった理由
本調査対象では、持ち帰り可能な運用が旅館群に多くみられた。旅館では薄手フェイスタオルが入浴用、記念用または持ち帰り用として受容されやすいことと整合する。一方、ホテルではタオルを備品として一括管理し、回収・洗濯・再提供する運用が多い。
ただし、旅館であっても備品型を用いる施設があり、ホテルであっても使い捨てタオルを併用する施設がある。業態だけでなく、タオルの所有関係、回収経路、洗濯方法、入浴導線および施設規模を確認する必要がある。
8.2 持ち帰り状況と施設側評価
本票24件では、持ち帰りが多い施設ほど施設側の総合評価が肯定的である傾向がみられた。持ち帰りによって、残置タオルの回収、廃棄、保管等の工程が減る可能性がある。
一方で、持ち帰りを前提とした運用を整備している施設だからこそ、持ち帰りが多く、施設側評価も肯定的になっている可能性がある。横断的な観察データだけでは、持ち帰りが評価を改善したのか、肯定的な施設が持ち帰りを促進しているのかを分離できない。
8.3 「どちらでもない」の意味
「どちらでもない」が11件であった点は重要である。残置タオルを清掃用に転用できる施設では、持ち帰られることが必ずしも強い利点にならない。反対に、残置されても大きな損失にならない場合もある。
したがって、中立回答を一律に「困らない」「負担がない」と再分類するのではなく、利点と負担の双方が存在する可能性を残して解釈する必要がある。
8.4 使用後処理とサービス・オペレーション
備品型では、回収、仕分け、洗濯、検品、保管、補充が必要になる。使い捨て・持ち帰り型では、持ち帰られなかったタオルの回収、清掃転用、廃棄、保管、補充および案内表示が必要になる。
どちらが施設にとって有利かは、タオル単価だけでなく、リネン回収ルート、清掃工程、残置率、転用可能性、廃棄費用、誤持ち帰りリスク等によって変わる。本研究はこれらの費用と作業時間を直接測定していないため、負担軽減を定量的に結論づけることはできない。
8.5 持ち帰り表示の実務的役割
持ち帰り表示には、持ち帰り促進だけでなく、宿泊客の迷いの解消、持ち帰り可能な薄手タオルと持ち帰り不可のバスタオル・備品タオルとの区別、誤持ち帰り防止という複数の役割がある。
実務上は「タオルは持ち帰りOK」と一括表示するのではなく、「袋入りの薄手フェイスタオルは持ち帰り可」「バスタオルおよび厚手タオルは備品のため持ち帰り不可」等、対象を明確に区別する方が安全である。
8.6 環境負荷を判断するために必要なデータ
持ち帰り率が高いことだけでは、環境負荷が低いとは判断できない。持ち帰られたタオルが家庭で何回再利用されるか、施設で残置タオルが何回清掃用に転用されるか、製造・輸送・洗濯・廃棄にどの程度の資源を使うかを確認する必要がある。
今後は、備品型と使い捨て・持ち帰り型の双方について、提供1枚当たりの製造、輸送、洗濯、作業時間、廃棄重量および再利用回数を比較する必要がある。
9.本研究の限界と今後の課題
- 既存登録顧客を対象とした便宜的標本であり、無作為抽出ではない。
- 全配信先を分母とした単純回答率は約4%で、宿泊施設だけの正確な回答率は不明である。
- 回答特典として5,000円分のクーポンを提示しており、回答参加や回答傾向に影響した可能性がある。
- 回答者の氏名、役職、所属部署を取得しておらず、施設運用をどの程度把握していたか確認できない。
- 重複回答を技術的に完全に制限していない。
- アンケート、対面聞き取り、現地観察では質問方法と取得項目が完全には一致しない。
- 施設側評価は単一設問による総合的印象であり、回収、廃棄、保管、費用等を個別に測定していない。
- 持ち帰り状況、残置状況および残置後処理は実測ではなく、施設側の回答や聞き取りに基づく。
- 旅館以外群は複数の異なる業態を含み、均質な比較群ではない。
- 大規模施設が少なく、施設規模による差を検証できない。
- 「困る」回答が2件にとどまり、困る要因を統計的に分析できない。
- 横断調査であり、持ち帰り状況と施設側評価の因果関係を示さない。
今後は、施設種別、所有・洗濯方式、提供枚数、持ち帰り枚数、残置枚数、廃棄重量、清掃転用回数、洗濯回数、作業時間および処理費用を統一した質問票で取得する必要がある。
また、旅館、都市型ホテル、温泉付きホテル、大浴場付きホテル、国民宿舎等の境界事例を明確に定義し、施設業態とタオル運用を分けて分析することが課題である。
10.匿名化と調査上の配慮
アンケートでは、施設名、回答者名、メールアドレス、会員ID等の識別情報を取得しなかった。個別施設調査は匿名IDで整理し、施設名、所在地、調査日、チェーン名、固有設備等、施設の特定につながる情報を掲載していない。
対面聞き取り2件では、調査目的と研究資料として公表する可能性を説明した。現地観察8件は一般利用者として確認し、フロントで得た回答は逐語引用せず、持ち帰り可否等の運用事実に要約した。
なお、アンケートは筆者が運営する宿泊施設向けECサイトの既存登録顧客を対象として実施した。この募集経路は、宿泊施設向けアメニティへの関心や取引関係を持つ事業者が回答しやすいという選択バイアスにつながる可能性がある。
11.よくある質問
旅館のフェイスタオルは持ち帰っていいですか。
施設によって異なります。本調査対象では旅館群に持ち帰り可能な運用が多く確認されましたが、すべての旅館に当てはまるわけではありません。案内表示を確認し、不明な場合は施設に確認してください。
バスタオルも持ち帰っていいですか。
一般的には、バスタオルは施設が回収・洗濯・再提供する備品であり、持ち帰り不可であることが多いと考えられます。本調査で持ち帰り対象として確認されたのは、主に薄手フェイスタオルです。
袋に入っていれば必ず持ち帰れますか。
袋入りであっても、施設の運用によって異なります。袋入りであることだけを根拠に判断せず、客室、浴場、脱衣所等の表示を確認してください。
使い捨てフェイスタオルが持ち帰られると、施設は助かるのですか。
アンケート本票24件では、助かる11件、どちらでもない11件、困る2件でした。すべての施設で助かるとはいえません。残置タオルを清掃用に利用できる施設では、中立的に受け止められる場合もあります。
持ち帰り可能なタオルの方が環境に良いですか。
本研究だけでは判断できません。製造、輸送、洗濯、家庭内再利用、清掃転用、最終廃棄までを比較する必要があります。
12.付録:アンケートの主要設問
主要設問と回答形式を表示する
| 設問 | 主な内容 | 回答形式 |
|---|---|---|
| Q1 | 施設種別 | 単一選択 |
| Q2 | 1日の平均利用者数 | 順序カテゴリ |
| Q3 | 主な利用客層または利用シーン | 複数選択 |
| Q4 | 現在提供しているフェイスタオルの種類 | 複数選択 |
| Q5 | 使用後のフェイスタオルの主な扱い | 複数選択 |
| Q6 | 退室後・利用後の使い捨てフェイスタオルの状況 | 5段階順序選択 |
| Q7 | 使い捨てフェイスタオルが持ち帰られることへの施設側の印象 | とても助かる/やや助かる/どちらでもない/やや困る/困る/導入していない |
| Q8 | Q7で助かる場合の理由 | 複数選択 |
| Q9 | Q7で困る場合の理由 | 複数選択 |
| Q10 | 持ち帰ってよい使い捨てアメニティの明記が助かるか | 単一選択 |
| Q11 | 明記する場合に効果的と考える案内場所 | 複数選択 |
| Q12 | 持ち帰りOKを明記することへの意見 | 自由記述 |
| Q13 | 現在のタオル運用で困っていること | 自由記述 |
13.参考文献
- Goldstein, N. J., Cialdini, R. B., & Griskevicius, V. (2008). A Room with a Viewpoint: Using Social Norms to Motivate Environmental Conservation in Hotels. Journal of Consumer Research, 35(3), 472–482.
- Han, H., & Hyun, S. S. (2018). What influences water conservation and towel reuse practices of hotel guests? Tourism Management, 64, 87–97.
- Gössling, S., Araña, J. E., & Aguiar-Quintana, J. T. (2019). Towel reuse in hotels: Importance of normative appeal designs. Tourism Management, 70, 273–283.
本記事は、査読過程で得た指摘を踏まえて、分析対象、母数、分類方法、統計手法および限界を再整理した研究報告です。


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